バッドジンクス×シュガーラバー
「自分の気持ちを伝えるのは……こわく、なかったですか?」
「え?」
「その……好きな人と職場が同じだと、もし上手くいかなかったときにすごく気まずいなあ、とか……」
訊ねながらも、私は落ちつかなくお冷のグラスを触ったり視線をさ迷わせたりしている。
そんな私の様子にも気分を害した素振りはなく、牧野さんが笑みを浮かべた。
「まあね、考えたよ。浅村はあの通り美人だし、同期にも先輩たちにも、ライバルは多かった。振られる未来なんていくらでもシミュレーションできたね」
だけど、と続けた牧野さんは、何の迷いもない清々しい表情をしていて。
「少なくともこの社内では俺が1番浅村に近い存在で、理解してやれるんだっていう自負があったし──みすみす他の男に渡す気なんて、なかったよ」
いつも見ている、人当たりのいい印象とは違う。その眼差しと言葉の強さに、ちょっとドキリとしてしまった。
一瞬呼吸を止めた私は、吐息とともに思わずつぶやく。
「……いいなあ。私も……そんなふうに、強くなりたかったです」
身を引いた、なんて殊勝なものじゃない。
1ヶ月前のあの日……私は、本当の気持ちを久浦部長にも侑子にも伝えることをせず、しっぽを巻いて土俵から逃げ出した。
劣等感に押しつぶされそうになって、久浦部長を拒絶した。
「え?」
「その……好きな人と職場が同じだと、もし上手くいかなかったときにすごく気まずいなあ、とか……」
訊ねながらも、私は落ちつかなくお冷のグラスを触ったり視線をさ迷わせたりしている。
そんな私の様子にも気分を害した素振りはなく、牧野さんが笑みを浮かべた。
「まあね、考えたよ。浅村はあの通り美人だし、同期にも先輩たちにも、ライバルは多かった。振られる未来なんていくらでもシミュレーションできたね」
だけど、と続けた牧野さんは、何の迷いもない清々しい表情をしていて。
「少なくともこの社内では俺が1番浅村に近い存在で、理解してやれるんだっていう自負があったし──みすみす他の男に渡す気なんて、なかったよ」
いつも見ている、人当たりのいい印象とは違う。その眼差しと言葉の強さに、ちょっとドキリとしてしまった。
一瞬呼吸を止めた私は、吐息とともに思わずつぶやく。
「……いいなあ。私も……そんなふうに、強くなりたかったです」
身を引いた、なんて殊勝なものじゃない。
1ヶ月前のあの日……私は、本当の気持ちを久浦部長にも侑子にも伝えることをせず、しっぽを巻いて土俵から逃げ出した。
劣等感に押しつぶされそうになって、久浦部長を拒絶した。