バッドジンクス×シュガーラバー
こちらの反応を見た久浦部長が、ふっと息を吐くのが聞こえる。



「なら、ああいうときの角が立たない対応早く身につけろ。あの扱いじゃ牧野だって気の毒だ」

「あ……」

「ウチの部署、今いい雰囲気で仕事できてるんだ。私情を振りかざしてチームワーク乱すようなヤツはいらないからな」



ぐっと、喉の奥で息が詰まった。

乱暴で厳しいセリフ。けど、久浦部長の言うことはもっともだ。だからその言葉が胸に刺さって、何も言えない。

けれどもなんとか謝罪は口にしなければと、うつむいたまま「申し訳ありませんでした」とつぶやいた。



「……はー……」



すると、耳に届いたのは一際大きなため息だ。

ビク、と思わず肩を揺らす。少しだけ顔を上げ、部長のつけているストライプ柄のネクタイまでを視界に入れた。



「あのなぁ小糸……ヒトと、話す、ときは、」



ひとことひとこと区切るように言いながら、部長がツカツカとこちらへ近づいてくる。

ただでさえ部長は身長が高い。すぐ前に立ち止まられると、ネクタイの結び目に固定している私の視線も自然と上向きになった。



「あ、あの……っ!?」



戸惑いつつも、おそるおそる声をかけようと試みる。

けれど突然、身体を屈めた部長の顔が至近距離で視界に入り込んできたものだから、続けようとした言葉はあっさり途切れた。

不機嫌に眉を寄せた部長の人差し指が、まるで私の顔を上向かせるように軽くひたいを押す。



「ヒトと、話すときは。ちゃんと相手の目を見ろって、教わらなかったか?」

「……ッ、」



かあっと、頬に熱が集まった。

その瞬間部長が驚いたように目を丸くした気がしたけれど、それを観察する余裕なんて今の私にはない。


子どもが受けるような注意をされてしまったこと。
久浦部長の顔が近すぎること。
ひたいを小突かれたこと。

何より、今目の前にいる久浦部長が、“男の人”だということ。

その事実すべてから逃げ出したくて、今にも泣き出しそうで──私は、勢いよく椅子から立ち上がった。
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