バッドジンクス×シュガーラバー
深呼吸を繰り返してから、思いきってインターホンを押す。
間もなく、目の前のドアが内側から開かれた。
「……お疲れさま。入ってくれ」
姿を現してそう言ったのは、初めて見るカジュアルな私服姿の久浦部長だ。
黒いTシャツにデニムと、着ているものはシンプルなのにとてもスタイリッシュでかっこよく見える。
私はドキドキしながら、彼の言葉に従って家の中へと足を踏み入れた。
久浦部長の自宅は会社から数駅離れた駅近にある、1DKのマンションの一室だった。
あれから部長は病院で念のための検査を受け、異常がないことを確認して自宅へと戻ったらしい。
ずっと落ちつかない気持ちで仕事をしていた私は、定時の30分ほど前にスマホへ久浦部長から届いたメッセージを見て心臓をはねさせた。
【検査は問題なかった。仕事が終わったら、俺の家に来てくれないか?】
一見素っ気ないそんな文章の下には彼のものと思われる住所と地図データが貼ってあって、ますます鼓動が速くなる。
それでも私はふたつ返事で、その申し出を受け入れたのだった。
「適当に座っててくれ。コーヒーしかないんだが、大丈夫か?」
頭部などの精密検査では異常なかったとはいえ、まったくの無傷というわけにはいかない。
身体のあちこちに擦り傷を作っている部長に動いてもらうのが申し訳なくて、リビングのソファに座る私はブンブン首を横に振った。