バッドジンクス×シュガーラバー
「牧野も浅村も、なぜか報告して来なかったからな。おまえが直接教えてくれるんだろ?」



そうだ。牧野さんとえみりさんには、私から直接報告したいと伝えていた。

ひざに置いた両手をギュッと握りしめ、満面の笑みで部長を見上げる。



「プレゼンは、なんとか通りました。これで来月、無事【和紅茶のマフィン】を発売することができます」

「そうか。よくがんばった」



私の言葉を聞いてホッと安心したように頬を緩めた久浦部長が、優しく頭に手を載せてくれた。

そのままポン、ポンと軽く弾む手のひらの感触は、羞恥と同時にうれしさも運ぶ。自然と顔がほころんだ。



「ありがとうございます。久浦部長のご指導のおかげです」

「おまえの努力が結果に結びついたんだ。まあ、がんばりすぎて体調を崩すのはいただけないが」

「う、そ、それは……返す言葉も、ないです」



とたんにしょんぼりしたこちらの様子に、久浦部長がまた笑う。

それから部長は、私の頭に載せていた手をすべらせて──今度は髪を梳くように、サラサラと撫で始めた。



「……さて。ここからは、プライベートの時間だ」



彼の纏う雰囲気と手つきが変わったことで、私の心臓が暴れ出す。

見上げた先の蕩けるような甘さを含んだ瞳から、目が離せない。知らずうち私は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
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