バッドジンクス×シュガーラバー
思いきって私からも背中に腕を回し、ギューッとしがみつく。

一瞬、久浦部長が驚いたように身体を震わせた。けれどもすぐにまた、抱きしめる力が強くなる。

そうして、どのくらいの時間が経ったんだろう。数十秒だったのかもしれないし、数分だったような気もする。

ふと腕の力を緩めた久浦部長が、少しだけ身体を離して私の顔を覗き込んだ。



「ふ……真っ赤だ」



笑みをこぼしてつぶやく彼に、私は不満の声を上げる。



「……仕方ないじゃないですか。私、こんなの慣れてないし」

「うん、わかってる。抱きしめられて真っ赤になるくらい、それだけ俺のことが好きってことだろ?」

「なっ!?」



こともなげに放たれたセリフで、さらに顔を熱くさせた。

相変わらず余裕の表情の久浦部長が、私の髪を楽しげに梳く。



「やはり、先人の言葉は馬鹿にできないな。待った甲斐があった」

「せ……何ですか、それ」



思わず訊ねれば、ますます目の前の笑みが深くなった。



「よく言うだろ。……『押してダメなら、引いてみろ』って」



そのセリフへ、私はとっさに何か返そうとしたのに──唇を塞がれてしまったことで、それは叶わない。

驚いた私は、目を開いたまま。対する久浦部長も、薄目でそんな私の反応を楽しんでいる。
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