バッドジンクス×シュガーラバー
気づけば背中がソファの座面について、部長の大きな身体に押し倒されるようになっていた。

息も絶え絶えな私の耳もとへ、まだまだ余裕のありそうな彼が唇を寄せる。



「逃げるなら、今が最後のチャンスだ。……ちゃんと、覚悟は済ませてきたか?」



低くささやかれたその言葉によみがえるのは、2度目のキスのあとで彼が放った、宣戦布告だ。



『もし、俺を受け入れる気になって、それを直接伝えてくれたら──そのときはもう、手加減しない。嫌ってほど甘やかしてグズグズに蕩かしてやるから、それ相応の覚悟は済ませておけよ』



いくらまったく恋愛経験がないとはいえ、私だっていい大人だ。あのセリフが示す意味くらい、ちゃんとわかっている。

ちゃんと、わかっていて──自分の真上にある久浦部長の整った顔に向かい、左手を伸ばす。



「……覚悟、とか。そんなたいそうなものが自分の中にあるのかは、正直、わからないです」



でも。

ただ、これだけは今、ハッキリと言える。



「大好きです、久浦部長。私を……あなたのものに、してください」



されるがまま私の左手のひらを頬に触れさせた彼が、目を見開く。

直後、深くため息を吐きながら、自分に触れる私の手首を掴んだ。



「ほんと……おまえのその意外なところで発揮する度胸には、敵わないよ」



つぶやいた久浦部長の顔には柔らかな笑みが浮かんでいて、その表情にキュンとする。
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