バッドジンクス×シュガーラバー
2:小糸憂依の事情×想定外〇〇?!
「憂依ちゃん、忙しいとは思うんだけどこの企画書にも目ぇ通しといてもらえる?」
「あ、はい! わかりました」
えみりさんから書類を受け取り、こくこくとうなずく。
私の反応に彼女はいつ見ても素敵な微笑みを浮かべると、再びデスク上のパソコンへと向き直った。
さっそく手渡された企画書に目を通そうとすれば、えみりさんとは反対隣から伸びてきた手がトン、と私のデスクをつつく。
「ごめん小糸さん、それあとで俺にも見せてもらえるかな?」
屈託なく私に笑いかけながらそう言うのは、右隣の席の牧野さんだ。
反射的に一度硬直し、けれども私はなんとか口もとを笑みの形にした。
「は、はい。あ、あとでいいんですか?」
「うん、大丈夫。そんなに急がなくてもいいから」
「わ、かり、ました」
まるで壊れかけのおもちゃのようなぎこちない返答に、牧野さんは苦笑する。
だけどそれを指摘するでもなく「よろしくね」と言って、牧野さんは席を立っていった。
その後ろ姿を見送り、つい漏れ出そうになるため息はなんとか喉の奥へと押し込む。
デイリーフーズ部への異動から、2週間。
私はなんとか、拙いながらもこうして日々の業務をこなしていた。
つまりは、久浦部長から逃げるようにミーティングルームを飛び出したあの日からも、2週間経ったということなんだけど……どんなお説教が待っているんだろうとドキドキしながら出社した翌日から今日まで、部長からは特にあの非礼に関する話はされていない。
久浦部長、私のあの行動に気を悪くしたりしなかったのだろうか。
仕事に関するやり取りはそれなりにしている。そのときだって、相変わらず厳しい表情を浮かべてはいるものの、特別私個人に対する怒りのようなものを感じることはない。
……まあ、久浦部長にあのときのことを蒸し返す気がないのなら、願ったり叶ったりだ。
そんなふうに考えて、自分自身を納得させている。