バッドジンクス×シュガーラバー
それから彼は自分の右手で持った私の左手のひらに唇を押しつけたあと、あろうことかべロリとそこを舐め上げた。



「ひあっ?!」

「かわいい声だな。今日は一晩中、聞かせてもらおうか」



相変わらず私の手のひらに口をつけたまま、久浦部長が熱っぽい瞳で流し見る。

その獣のような眼差しとささやきに、ゾクリと身体が震えて──なのに全然、嫌じゃない。



「初心者に、それは……ちょっと、ハードルが高いです……」

「安心しろ。ちゃんと、めいっぱい優しくしてやるから」



顔を赤くして心ばかりの抗議をしてみれば、それはそれは甘ったるい笑顔を返されて口をつぐんだ。

これが、惚れた弱みというやつなのだろうか。きっと私は、彼がすることならなんでも許してしまうのだと思う。

だけど好きになったこの人が、自分が本気で嫌がるようなことは決してしないとわかっているから……心置きなく、こんなセリフにもドキドキすることができるのだ。



「とりあえず、ここから先は『久浦部長』じゃなくて『佑』と呼んでみようか?」

「そ、それも、ハードルが……」

「却下。呼び間違えるたびにキスだからな、憂依」



不意打ちで初めて呼ばれた自分の名前に驚く間もなく、降ってきた唇に吐息を奪われる。

その晩私は数え切れないくらい、何度も彼とキスを交わすことになるのだった。
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