バッドジンクス×シュガーラバー
下りのエレベーターに乗り込む久浦部長に続いて、足を踏み入れる。

部長が押したのは地下1階のボタン。電車通勤の私は普段使うことのない、駐車場がある階だ。

ふたりきりのエレベーター内に、沈黙が落ちる。

というか、部長との距離意外に近いな……。

しかもなぜか、部長は私のことをじっと見下ろしている気がする。
うつむき気味にしているから目が合うことはないけれど、不躾に注がれる視線が居心地悪くて身じろぎした。

ど、どうして私、部長にこんなに見られてるの?

そうこうしているうちにエレベーターが地下1階に到着し、機械的な音をたててドアが開く。

颯爽と降りる久浦部長に続いて、私も足を踏み出した。

1台の白いセダンの前で立ち止まった部長が、キーを操作してロックを解除する。

この車って、社用車だよね?



「なにしてる。さっさと乗れ」



車を前にしてぼんやり突っ立っていたら、いつの間にか運転席に座っていた部長に呆れ顔で急かされてしまった。

私は慌てて、助手席へと乗り込む。



「あ、あの……私たちはこれから、どちらへ行くんでしょう」



本当は自分から話しかけたくないんだけど、さすがに気になる。

シートベルトを引っぱりつつ、おそるおそる訊ねてみた。

久浦部長はこちらに一瞥もくれず、ルームミラーを微調整しながらひとこと。



「市場調査だ」

「は……はあ……」



市場調査? で、なんで私ひとりを指名??

答えは返ってきたものの、疑問は解決されないままだ。けれどこれ以上質問を重ねるのははばかれて、それきり私は押し黙った。

相変わらず部長はこわいけど、ここまでついて来ちゃったら仕方ない。
というか、1対1でいるこの状況で普段みたいに避けまくるわけにもいかないし。

思わず漏れ出そうになるため息を、なんとか飲み込む。

そうしてちぐはぐな私たちを乗せた白い社用車は、久浦部長の運転で軽やかに走り出した。
< 25 / 241 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop