バッドジンクス×シュガーラバー
約15分後。車を降りた私は、唖然とする。



「ここって……ケーキ屋さん、ですか?」



目の前にあるかわいらしい外観のお店を見つめて思わずつぶやけば、久浦部長は車をロックしながら「そうだ」となんでもないように言い放った。

そのままスタスタとお店の出入り口に向かう背中を、慌てて追いかける。


このケーキ屋さんって、よく雑誌とかテレビでも取り上げられている有名店だ。

部長がアンティーク調のドアを開ければ、カラン、と澄んだベルの音が鳴った。広いスーツの背中に続いて、店内へと足を踏み入れる。

とたん鼻腔をくすぐった甘い香りに、思わず頬が緩んだ。



「いらっしゃいませー!」



カウンターの向こうにいる女性店員さんから元気な声が飛ぶ。

出入り口のそばに色とりどりのケーキが並ぶショーケースがあって、店の奥には広めのイートインスペースが設けられていた。

さすが人気店。平日とはいえ、店内の席はほとんど埋まっている。

客層は、女性が8割男性が2割といったところ。休日になれば、また変わるのかもしれない。



「2名様ですね。店内でお召し上がりでしょうか?」

「はい」



店員さんの質問に、久浦部長があっさりと答えた。

薄々思ってはいたけど、ここでケーキを食べるの? ……部長と私が、ふたりで?

混乱と困惑の極みの中にいる私なんておかまいなしで、部長は淡々とショーケースの中からいくつかのケーキを注文している。

そのあと不意にこちらを振り向いたから、ドキッと心臓がはねた。
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