バッドジンクス×シュガーラバー
「小糸も、食べたいものがあれば選べ」

「あ……はい」



鋭い眼光で射抜かれながらそう言われれば、ビビりの私は反射的にうなずいてしまう。

おずおずと1歩踏み出して、ショーケースを覗く。そこにはカラフルでおいしそうな、たくさんのケーキたちが鎮座していた。

ざっと目を通し、私はそのうちのひとつを指さす。



「えと……では、この抹茶のロールケーキで」

「よし。すみませんが、以上でお願いします」

「かしこまりました。こちらご確認いただいてよろしいですか?」



トレーに載せたケーキが見やすいように、少し傾けながら店員さんが言った。

指定したものが間違いなくあるか、久浦部長が確認する。
そのあと部長はホットコーヒー、私はアールグレイを頼んでから、イートインスペースの一角にあるテーブル席へと腰を下ろした。

久浦部長と向かい合ってケーキ屋さんにいるなんて、落ちつかない。

自分の膝やメニュー表にソワソワ視線をさまよわせているうち、ほどなくして注文したケーキと飲み物が運ばれてきた。


いちごのショートケーキ。フルーツタルト。和栗のモンブラン。レアフロマージュ。キャラメルエクレア。ガトーショコラ。

そして、私が選んだ抹茶のロールケーキ。

……いくらなんでも、頼みすぎじゃないだろうか。

これ全部、久浦部長食べるつもりなの?



「よし、食うか」



テーブルの上に広がる光景を眺めて呆然とする私を気にもとめず、部長がフォークを手に取る。

いただきます、と意外にもキッチリ行儀良く手を合わせてから、レアフロマージュを食べ始めた。
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