バッドジンクス×シュガーラバー
「なに固まってるんだ。これ全部食べきるんだから、おまえもとっととフォークを持て」

「ぅえっ、わ、私も食べるんですか?!」 

「市場調査なんだから当然だ。全部半分ずつな」



言いながらすでにレアフロマージュの半分を食べ終えた久浦部長が、その皿を私の方へと押し出す。

驚きのあまり、つい部長と目を合わせてしまった。私はすぐにまた視線を落とすと、自分の前にある抹茶のロールケーキにフォークを入れる。



「ん、おいし……」



ひと口食べて、ふにゃりと頬を緩めながら無意識につぶやいた。

久浦部長がこっちを見た気がしたから、慌てて顔を引き締める。

市場調査……おいしいと評判のお店でいろんなケーキを食べて、人気のある味を自分で確かめるってことなんだろうか。

にしても、すごい量だ。でも半分ずつなら、なんとか食べ切れる……かも?

いやいやでもこんな、男の人とケーキをシェアする、だなんて──。



「手が止まってるぞ。ちゃんと味を分析しながら、キリキリ食え」

「ひっ……は、はい……」



鋭い眼差しでひと睨みされ、思わずすくみ上がりながら返事をしてしまう。

うう、部長がおっかなくて断れない……というかこれ、仕事だしなあ……どっちにしろ、断るわけにいかないよね。

とりあえずロールケーキを半分消費して、もう半分が載った皿をそっと久浦部長の方へと差し出した。

部長は迷わずそれを引き寄せ、ついさっきまで私が食べていたロールケーキの残りを口に運ぶ。


……食べるのには使っていないフォークで半分に分けたものとはいえ、会社の上司とケーキをシェアするのは、なんだか恥ずかしいな。

ちら、と、目の前にいる部長を上目遣いに盗み見る。

久浦部長がフォークで運ぶひと口は大きいけど、市場調査と銘打っているだけあっていろいろ考えながら味わっているのか、咀嚼する時間は少し長めだ。
< 28 / 241 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop