バッドジンクス×シュガーラバー
なんか、身体の大きな男の人が、ちんまりしたケーキをもぐもぐしてる姿って……。

なんとなく、ちょっと……かわいい、かも。


そのとき、不意に顔を上げた久浦部長と目が合った。

ハッとした私は、すぐに視線を逸らす。


う……食べてるとこ、見てたのバレた?

ツッコまれるのがこわくて、それから、上司──しかも男の人相手にそんなことを思ってしまった自分が恥ずかしくて。

部長が何か言うより先に、つい自分から口を開く。



「そ、そのロールケーキ、おいしいですよね。あの、スポンジの口どけがすごくいいし、濃厚な生クリームの中でも、小豆がいいアクセントになってて」



うろうろと目を泳がせながら、必死になって言葉を紡いだ。

一瞬の間のあと「そうだな」と素直に反応が返ってくる。



「たしかに美味い。上に振りかけてある抹茶パウダーも、ずいぶんこだわって選んでるんだろうな」

「で、ですね……」



うなずきながら、『ああ、できればあまり会話はしたくないのに……』と心の中で思いきりため息を吐く。

でも、仕事だから仕方ない。今度はもくもくとフルーツタルトを切り崩していると、再び久浦部長の声がした。



「ああでも、アレも食べてみたいんだよな。“満天堂”の【桜色ロール】」

「え?」



聞こえたセリフが予想外で、つい、また顔を上げてしまった。

視線の先で、久浦部長が私を見つめながらニッと口角を上げる。



「なんだよその顔は。おまえが自分で勧めてたんだろうが」

「……部長、社内報に載せてた私のコーナー、見てくれてたんですか?」

「あ? そりゃ見るだろ。仕事の上で参考にもなるし、甘いものは個人的にも好きだからな」



笑みを浮かべたままサラリと言い放ち、部長はいちごショートを口に運ぶ。

私はというと自分の頬に熱が灯るのを感じて、またもや視線を手もとのケーキへと落とした。
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