バッドジンクス×シュガーラバー
もともと、私のヘアスタイルは何も手を加えていない真っ黒なストレートロングだった。

それを美容師の母に「あんたも年頃なんだから少しはオシャレしなさい!」と詰め寄られ……長さをボブに切りそろえてゆるくパーマをかけたうえ、半ば強引にチョコレートブラウンに染められたのは、つい先日のことだ。

人目を避ける長めの前髪は、なんとか死守できてよかった。
今までずっとこのスタイルで来たから、眉上の長さまで切られそうになったときは本気で抵抗したものだ。

とはいえ中身は今まで通りの根暗な私だし、服装だって無地のカットソーに薄手のカーディガンを羽織り、膝丈のプリーツスカートを合わせた、今のような地味でシンプルなものがデフォルト。

母親に似たくっきり二重の丸い目にかけた野暮ったい黒縁メガネも変わらないから、これはただのマイナーチェンジといったところ。

それでも完成した髪型を鏡越しに見たとき自分の中のささやかな乙女心がちょっぴり高揚してしまったのは、お母さんにも内緒だ。

そんなこんなで迎えた異動初日。
それでもいざデイリーフーズ部のオフィスに来ると、やっぱり一気に気分が落ち込んでしまった。

デイリーフーズ部は、年配の上司と女性社員ばかりだった広報室に比べ、若い男性社員の数が圧倒的に多い。

……あまり、関わらないように、しなきゃ。

後ろ髪が短くなって心もとないうなじを、軽く撫でる。

そうして顔を上げた先に、見覚えのある男性社員の姿を見つけた。
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