バッドジンクス×シュガーラバー
「つまり小糸は、俺を含めた周りの男たちに悪いことが起きるのを防ぐために、あのよそよそしい態度を取っていたわけか」

「あ……えっと、はい」



部長の言葉は事実なんだけど、なんとなく目を伏せながらためらいがちにうなずいた。

信じて……くれるの? 我ながら突拍子もない、このジンクスを?

もちろん、信じてくれるのはありがたい。だって私の“体質”はたしかなものだと、これまでの経験から嫌ってほど思い知っている。

これで久浦部長も、私とは極力かかわらないようにしてくれるよね?

そう考えたとき、なぜか胸の奥がチクリと痛んだ気がしたけれど、気のせいだと決めつけて思考を振り払う。

だけど部長はさらに、こちらの予想を超える言動に出た。



「わかった。そのジンクス、俺が変えてやる」

「へ……っ!?」



思いもよらない言葉が降ってきて、とっさに顔を上向かせる、と。

なぜか伸びてきた大きな手により、自然な動作でメガネが奪われた。

そのまま部長は、メガネを攫ったものとは違う方の手の指をひっかけて私の顎をすくう。



「あのっ部長、何を──……ッ」



慌てて声を上げた、裸眼のぼやけた視界の中。久浦部長が、楽しげに口角を上げた気がした。

驚く間もなく顔を寄せてきた部長からなんだかいい匂いがして、気を取られた私が我に返るより早く──唇が、重なる。
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