バッドジンクス×シュガーラバー
笑みを含んだえみりさんの指摘にハッとし、両手で包み込むように持っていたプラスチックスプーンを慌ててゴミ箱に入れた。

その様子を終始眺めていた彼女が、弧を描いたつややかな口もとにこれまた綺麗な指先を色っぽく添える。



「なーんか今日の憂依ちゃん、心ここに在らずって感じね。何か、心配ごとでもあるの?」



彼女のセリフにドキリとした。

だけど私は、こっそり吐息をこぼしてから首を横に振る。



「いえ、何でもありません。ぼんやりしてしまってすみませんでした」

「そ? なら、いいんだけど」



意外とあっさりそう返し、えみりさんはそれ以上何も言ってこなかった。

一応はごまかせただろうか。私はまた、ひそかに嘆息する。



『そのジンクス、俺が変えてやる』



上司である久浦部長に、そう言って突然キスをされたのはつい昨日のことだ。

出社してから今まで、まだ久浦部長とは顔を合わせていない。

今日の部長は朝から取引先に直行していて、少なくとも私がラボに向かうまでは、まだオフィスに来ていなかった。

無意識に胸もとで両手を握りしめ、ゴクリと唾を飲み込む。

久浦部長に訳もわからずいきなりキスをされ、ものすごく驚いたし、今も困惑している。

だけどそれ以上に──私に対してあんなことをした久浦部長が、今このときも無事で済んでいるかどうか。それだけが気になって、仕方ない。
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