バッドジンクス×シュガーラバー
一緒に遊んだとか、肩がぶつかったとか。そんな些細なことでも相手の男性に不幸を呼び寄せてきた自分が、キスだなんて親密な相手とするようなことをしてしまって……果たして久浦部長には、一体どれほどの災厄が降りかかるというのだろう。

考えれば考えるほど、悪い想像ばかりが頭に浮かんで気が重くなる。

一刻も早く、久浦部長の姿をこの目で確認したい。

どうか──どうか、無事でいて欲しい。



「あれ? 牧野くん、手首のそれどうしたの?」



ラボを出てオフィスに戻る途中、エレベーターの中でえみりさんが不思議そうな声を漏らした。

ふたりの背後で資料を抱えながらうつむいていた私は、つられるように顔を上げてそちらを見る。



「あ、これ? 昼休みに近くの公園行ったら、ベンチから出てた釘に引っかけた」

「うわ、痛そ。大丈夫?」



ジャケットの袖にちょうど隠れていて気づかなかったけれど、たしかに牧野さんの右手首には、血が乾いたような赤くて痛々しい引っ掻き傷があった。

持ち上げた右手のひらをグーパーと開いたり閉じたりしながら、横顔の牧野さんが苦笑する。
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