バッドジンクス×シュガーラバー
「ああ、小糸さん。ちょうどよかった」



言いながら私を手招きするのは、植田本部長だ。

隣に見覚えのない男性社員もいる。

じっとこちらに視線を向けてくるその人と目を合わせないようにしながら、ふたりに小走りで近づいた。



「お疲れさまです、本部長」

「ご苦労さま。小糸さんは、まだ会ってなかったよね」



つい、と植田本部長が、自分の右隣に立つ人物を視線で示す。



「彼は、デイリーフーズ部の中でもベーカリーとデザート関連を統括している久浦(ひさうら)部長。何かあったときは彼を頼るといい」

「……どうも。久浦だ」



小さく会釈したその人は、『部長』という役職のわりにかなり若く見えた。

野獣じみた荒っぽさが滲む、まるで俳優さんみたいに整った精悍な顔立ちだ。

艶のある短い黒髪を無造作に後ろへ流すようにしているから、形のいいひたいを含めその顔は簡単に観察できる。

キリリとつり上がった眉。私を見下ろす、二重の線がはっきりした三白眼。

高めの鼻梁の下にある薄い唇は今は固く結ばれており、いかにも仕事に厳しそうな雰囲気を醸し出していた。



「こ、小糸です。よろしくお願いします」



ペコリと頭を下げながら、内心冷や汗だらだらだ。

うわぁ、この人が直属の上司になるのか。

背が大きくて、威圧感ビッシビシだ。
180センチはあるだろうから、151センチと小柄な私とじゃ、たぶん30センチくらい身長差がありそう……。

元が整ってるだけに、無表情がやけにこわい。そして視線も鋭い。

き、厳しそう……。



「若くて驚いたでしょう。今いくつだっけ?」

「今年で33になります」



話を振られた久浦部長があっさり答える。

やっぱり、すごく若い。それほど、この男性が優秀な人材ということなのだろう。

息を呑む私の目の前で、本部長はのんびりと続けた。
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