バッドジンクス×シュガーラバー

オフィスに戻っても、まだそこに久浦部長の姿はなかった。

デスクにつくなり、パソコンで社内ネットワークにアクセスして、Web行動予定表を開く。

それから今日はもう何度もなぞった名前の欄に、またこっそり目を走らせた。

書かれているのは、朝から変わらず【PM出社予定】の文字だ。
けれど時計は、とっくに15時半を回っている。

久浦部長……もしかして本当に、何かあったんじゃ……？

ディスプレイに表示された、一向に現れてくれない上司の名前を見つめながら、最悪の事態ばかり想像してしまう。

するとそこで、私の思考を断つようにデスクの上の固定電話が内線を知らせた。

慌ててパソコンから顔を上げ、手を伸ばす。



「はい、デイリーフーズ部の小糸です」

《あ、小糸さん？　お疲れさまです、上本です》



耳にあてた受話器のスピーカーから聞こえてきたのは、つい先ほどまでラボで会っていた協力工場のパティシエさん・上本(うえもと)さんの凛とした声だった。

予想外の人物に、私は思わず目を丸くする。