バッドジンクス×シュガーラバー
「上本さん? お疲れさまです、先ほどはありがとうございました」

《こちらこそ。ところで小糸さん、ラボに何か忘れ物しませんでした?》

「忘れ物……?」

《テーブルの上に、4色ボールペンとレモンイエローの表紙のメモ帳が置いてあったんですけど》



直接会っているときと変わらない、いつも落ちついて滑舌のいい彼女の言葉に、ハッとした。



「あっ! それ、私です……」



申し訳なさでいっぱいになりながら、答える。

上本さんは《ああ、やっぱり》と笑い混じりに言って、さらに続けた。



《どうしますか? このままラボに置いておきます?》

「いえ、今から取りに行きます。すみません、お手数おかけしました」

《気にしないで。それじゃあ、私はまだここにいるので、お待ちしてますね》

「ありがとうございます。すぐ向かいます」



受話器を置き、深くため息を吐く。

ボールペンはともかく、メモ帳はデイリーフーズ部への異動以来、仕事に関して事細かに書きつけているものだ。

まだまだ覚えきれていないことばかりだし、あれがないと困る。ああもう、なんでそんな大事なものを忘れてきてしまったんだろう。
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