バッドジンクス×シュガーラバー
「なるほどな。そんなに怯えるほど、おまえのジンクスとやらはこれまでずっと威力絶大だったわけだ」
言いながら部長の左手が私の肩を離れ、代わりにペタリと頬を包んだかと思うと少し硬い親指の腹が濡れた目もとを拭う。
ここでようやく、心臓がバクバクと激しい鼓動を刻み始めた。
ものすごく今さらだけど、急にこの状況が恥ずかしく思えて硬直する。
きっと、今の私の顔は真っ赤に染まっているはずだ。
そんなこちらの様子を眺めながら、久浦部長がさらに口を開いた。
「まあ、正直ここに来るまでの道中は穏やかじゃなかったけどな。歩いていたらビルのボロくなった看板が落ちてきたし、乗ってたタクシーも危うく事故りかけたし、今日だけで5回も目の前を黒猫が横切った」
「え?!」
物騒すぎる出来事の数々に思わず声を上げる。
けれど部長は意に介さず「でも、」と話を続けた。
「でも……今俺はこうして無傷で、おまえと一緒にいる」
顔に触れたままの久浦部長の手が、むに、と私の頬を軽くつまんだ。
「どうだ、俺の強運。恐れ入ったか?」
ニヤリとどこか意地悪そうに口角を上げたその表情と堂々たる言葉に、また心臓が大きくはねた。
仄かに薄暗い非常階段の照明の下でも、久浦部長の黒い瞳は綺麗に煌めいて見える。
言いながら部長の左手が私の肩を離れ、代わりにペタリと頬を包んだかと思うと少し硬い親指の腹が濡れた目もとを拭う。
ここでようやく、心臓がバクバクと激しい鼓動を刻み始めた。
ものすごく今さらだけど、急にこの状況が恥ずかしく思えて硬直する。
きっと、今の私の顔は真っ赤に染まっているはずだ。
そんなこちらの様子を眺めながら、久浦部長がさらに口を開いた。
「まあ、正直ここに来るまでの道中は穏やかじゃなかったけどな。歩いていたらビルのボロくなった看板が落ちてきたし、乗ってたタクシーも危うく事故りかけたし、今日だけで5回も目の前を黒猫が横切った」
「え?!」
物騒すぎる出来事の数々に思わず声を上げる。
けれど部長は意に介さず「でも、」と話を続けた。
「でも……今俺はこうして無傷で、おまえと一緒にいる」
顔に触れたままの久浦部長の手が、むに、と私の頬を軽くつまんだ。
「どうだ、俺の強運。恐れ入ったか?」
ニヤリとどこか意地悪そうに口角を上げたその表情と堂々たる言葉に、また心臓が大きくはねた。
仄かに薄暗い非常階段の照明の下でも、久浦部長の黒い瞳は綺麗に煌めいて見える。