バッドジンクス×シュガーラバー
本社10階にある社員食堂は、昼時ともなるとほとんどの席が埋まってしまうほど社員たちに親しまれている人気スポットだ。

さまざな年代の栄養士さんたちが趣向を凝らしたランチメニューは、手頃な値段ながら栄養バランスだけじゃなく味も文句なしと評判。

そんな食堂の中ほどでかき揚げうどんの乗ったトレーを持ちキョロキョロとあたりを見渡していた私は、あるテーブルに目的の人物を見つけて思わず相好を崩した。



侑子(ゆうこ)! ごめんお待たせー」



慎重な足取りで近づく私に気づき、侑子がスマホに落としていた視線をこちらに向ける。



憂依(うい)。お疲れ」

「お疲れ! はあ、ようやくごはん~」



ため息をつきながら、トレーの上の箸に手を伸ばす。

以前はこの食堂でも割り箸が使われていたけれど、エコ活動の一環で今は全部再利用がきくプラスチック製の黒い箸に変えられていた。

同じように箸を持った侑子の前には、手付かずのAセット。ここへは先に来ていたのに、私が来るまで食べるのを待っていてくれたんだろう。



「ありがと侑子。わざわざ待っててくれて」

「気にしないで。私もさっき来たとこだったし」



そう言って微笑む彼女、吉永(よしなが)侑子は、マーケティング部に所属する私の同期だ。

誰が見ても「美人だ」と口を揃える素晴らしい容姿をしている彼女だけれど、本人はあまり自分の顔が好きではないらしい。

すらりと高い身長に、真っ黒で艶のある長い髪は私のちょっと癖のある地毛とは大違いだ。

細いけれど出るところはちゃんと出ている、そんなうらやましいボディの上に、小さなたまご型の顔が乗っていて。

いつ見てもキメ細やかで滑らかな肌に、アーモンドみたいなくっきりした二重の瞳。鼻筋はすっと通っていて、少しだけ厚めの下唇がセクシー。

……うん。豚のしょうが焼きを優雅な仕草で口に運ぶ侑子さまは、今日もケチの付けようがない美人だ。
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