バッドジンクス×シュガーラバー
やけに素直に返事をして、彼女はテーブルを支えにしながらよろよろと立ち上がった。

けれども直立することは叶わず、身体がふらついたところを慌てて手を伸ばす。



「自力歩行は無理そうだな。支えてるから、掴まってろ」



俺の左腕に手を回すように誘導しながら言えば、小糸は小さくうなずいて「すみません」とつぶやいた。

赤い顔でとろんと半分まぶたを下ろし、素直な様子でキュッと腕にしがみついてくる彼女の破壊力に内心で悶える。

けれども部下や上司の目がある手前、そんなみっともない姿を見せられるわけがない。

自分の中にある理性と見栄を総動員してなんとか店の外に出ると、タクシーを拾った。

先に小糸を後部座席に押し込んだあとで自分も乗り込み、ドアが閉まってから小糸に自宅の住所を聞き出す。

彼女が眠そうに口にした地名は、たしかに俺の住むマンションと同じ方向だ。

タクシーが走り出す。背もたれに体重を預けて両腕を組み、たまらず長いため息を吐いた。



「迷惑かけてごめんなさい……部長、呆れてますか……?」



不意にそんな言葉が聞こえてきて、俺は右隣に目を向けた。

こちらに視線を寄越すこともないまま、小糸が同じように深くシートに背を沈ませている。
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