バッドジンクス×シュガーラバー
うつむく顔には横髪がかかっているため、その表情は見えない……が、どことなくしょぼくれた空気を察した俺は、あえて口もとに笑みを浮かべた。



「別に、呆れてない。というか、俺が呆れるとしたらそれは浅村の方だな。アイツには前から、気に入った人間にやたらと酒を飲ませたがる悪い癖があるんだ。むしろ止めてやれなくて悪い」

「そんな……私、気に入ってもらえてるなら、うれしいです……」



相変わらず眠そうではあるが、さっきまでより少しだけ声音が明るくなる。

酔いのせいか、今の彼女はいつもより饒舌だ。ひそかにホッとしつつ、俺はさらに口を開いた。



「今度からは、俺の名前出してでも拒否していいからな。どれだけ飲まされたんだ」

「うーん……カクテルとサワーを……3杯……?」

「3? 意外と少ないな」



おどろく俺へ、小糸は熱い吐息をこぼしてから答える。



「たぶん、遺伝で……弱いみたいなんです。お父さん、ものすごい下戸だったらしくて……」



彼女の口から出た『お父さん』という言葉に、つい身体が反応した。

小糸は、窓の方に顔を向けている。暗い車内で窓ガラスは鏡のようになり、彼女の憂いを帯びた表情を映していた。
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