バッドジンクス×シュガーラバー
「……部長、は……少しだけ、お父さんに似ています……」



小糸がそんなセリフをこぼすから、俺は目をまたたかせる。



「似てる? おまえの父親と、俺が?」

「はい……背が高くて、険しい顔をしてることが多くて、ちょっと口調が強くて……でも、ちゃんと優しいところ……」



相手は酔っているとわかっていても、油断していたところに不意打ちの褒め言葉がきて鼓動が速まった。

優しい? 俺が?

自分では、そんなふうに思わない。

だけど小糸がそう感じるのなら、きっとそれは、俺が彼女に好意を持っていて、無意識に良く見られようとしているせいだ。

他人から『優しい人だ』と評価されたいわけではないが、彼女に言われるなら悪くない。

もし、俺の打算的な優しさに小糸が少しでも絆されてくれているのなら、願ったり叶ったりだ。



「……小糸」



組んでいた腕をほどき、静かに身体を寄せながら名前を呼ぶ。

近づく俺に気がつかないのか、彼女は動かない。

そっと伸ばした手が、肩に触れる直前──また小糸が、口を開いた。



「でも……キスは、ちゃんと、好きな人にしなきゃ……ダメ、ですよ……」
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