俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
「そうなんですね。じゃあ、おつまみを作りますね。なんでもいいですか?」
「作れるのか?」
「はい。こう見えて、お料理は得意なんですよ」
厳しい父のおかげで家にいることが多かった紬花は、母の夕飯作りを手伝うことが日課で自然と覚え上達していった。
「そうなのか。だが、冷蔵庫には何もないぞ」
陽は簡単な料理しかしないタイプで、夕食用のつまみもほとんど購入している。
あまるほど余計に買うわけでもなく、冷蔵庫に入っているのは数種類の調味料と炭酸水やミネラルウォーターくらいだと説明した。
「わかりました。じゃあ今から買ってきますね」
陽の住むこのタワーマンションは、一階にスーパーマーケットや薬局が入っている。
紬花は丸いフォルムのショルダーバッグを肩にかけると、陽の役に立てることを喜びながら玄関へ向かった。
その後ろ姿を見つめていた陽は、一瞬、このままスーツケースごと追い出せばいいのではと考えたのだが、一生懸命に尽くそうとする姿にそこまで鬼になれず、とりあえず紬花が満足するか根をあげるまでは好きにさせるかと腹をくくった。