俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
【2】そんな罰ってありですか?
カマンベールチーズとモッツァレラチーズ。
生ハムとバジルに、春巻きの皮、トマトピューレに小麦粉。
ベビーリーフにミニトマトとその他諸々、必要材料を購入した紬花が陽の家に戻ったのは、出発してからかれこれ三十分ほど経った頃だ。
「ただいま戻りました! 御子柴さん、冷蔵庫開けていいですか? ……あれ? 御子柴さん?」
返事が聞こえず、アトリエの方にも声をかけたが反応はない。
(もしかして出掛けたのかな?)
買い物に行く際、外出するような話は聞いていなかったが、急な用事でもできて出たのかもしれない。
それならば、申し訳ないけれど食材が傷まないよう冷蔵庫を開けさせてもらおうと、大きな銀色の冷蔵庫に手をかける。
「わ、凄い。これ、炭酸水が作れる冷蔵庫だ」
炭酸水ディスペンサー付き冷蔵庫に感嘆を漏らし、少し飲んでみたいと心を踊らせながら、購入した食材を仕舞っていた時だ。
──カタン、と物音が聞こえ、紬花の肩が驚きに跳ねた。
「……御子柴、さん?」
てっきり不在なのだと思っていた紬花の脳裏に、陽ではない可能性が浮かぶ。
(泥棒か幽霊……なんてオチ、ないよね?)
幽霊ならば気合いでどうにかご退場願えそうだが、泥棒はそうもいかない。
しかし、陽のお世話係としてここにいるならば、やすやすと盗ませるわけにはいかないと、紬花はキッチンの壁に掛かるフライパンを手に音がした方へと忍び足で向かった。