俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
【3】やらせてください!
──きっと、あのキスは夢でも見ていたのだ。
そう思えるほど、紬花から見た陽の態度は普通だった。
紬花が陽の世話をするべく居候を始めてから二週間。
「御子柴さん、式場CMのドレスデザインの打ち合わせなんですけど」
「日程変更の件か?」
「はい。来週の木曜日でしたらということです」
浴室での話題は一切出ることなく、また、浴室の手伝いもすることはないまま、 エトワールのオフィスで紬花はアシスタント業務に精を出している。
「木曜……夕方までは無理だな。十七時以降でかまわないか確認してくれ」
窓際を背に設置された陽専用のデスク。
ワークチェアに腰掛け、タブレットでスケジュールを確認した陽が紬花に伝える。
「はい、わかりました」
「ところで、特注した生地はどうした?」
陽の視線がタブレットから紬花へと移るが、そこに揺らぎはない。
(意識してるの、私だけ……なのかな)
仕事中は余計なことを考えないようにしてはいるが、陽を見るとやはり気持ちが乱れて落ち着かない気分になった。
しかし、それは自分だけなのだと思うと、なぜか心は重さを持って落胆し、紬花の声は僅かに覇気を無くす。