俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
「生地は明日の午前中に到着予定です」
「予定通りだな。廣崎にパターンを確認してくれ。俺も十五時からのクライアントとの打ち合わせが終わり次第、一度確認に向かう」
婚礼時期のトップシーズンは、気温が穏やかな春と秋が一般的だ。
それに伴い、完成まで三ヶ月から半年ほどかかるオーダードレスのデザインは、夏と冬の間が繁忙期となり、十二月に入ると、エトワールも休み返上覚悟の忙しさに追われ始める。
四月入社の紬花は、六月から八月の忙しさをすでに体験しているのだが、陽の右腕が負傷している今冬は、デザインや作業などのサポートが増えた為に夏よりも多忙な感覚に襲われていた。
しかし、この状況は自らが蒔いた種。
弱音など吐いてはいられないと、ゆっくり深呼吸して俯きがちだった顔を上げると笑顔で陽に「了解しました」と告げて自席へ戻る。
(そろそろ新規のクライアントさんが来る時間だから、準備しておかなくちゃ)
本日、二件目となるクライアントは、来年六月の挙式に合わせてオートクチュールドレスを希望している花嫁だ。
電話で初回打ち合わせの予約をもらった際、軽くデザインの要望を聞いたのだが……。