俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
数度、ぼんやりと瞬いた後に目を覚ました紬花は、いつの間にか自分が寝てしまっていたことに気付き、慌てて身体を起こした。
「あ、れ? 御子柴さん?」
アトリエで仕事をしている陽がここにいるということは、それなりに時間が経っており、そろそろ切り上げて寝るのではと予想する。
「もしかして、もう深夜ですか?」
そうであれば寝すぎてしまったと時刻を確認しようと、紬花はテーブルに置いたスマホを手にした。
「橘、この写真はお前のか?」
訊ねると、写真を受け取った紬花は視線を落とすと、顔を優しく綻ばせる。
「はい。これは、私がドレスデザイナーを目指すきっかけになったウェディングドレスなんですよ」
鳴瀬にもう一度会いたいと願い、通い続けた繁華街からほど近い場所に建つファッションやデザインを学ぶ大学。
在学生の呼び込みをきっかけに覗いた大学祭の一角に展示されていたウェディングドレスに、高校生だった紬花は目だけでなく心を奪われた。
レースをふんだんに使用し、上質なボリューム感で魅せるティアードスカートと、新郎新婦の絆をしっかりと結ぶかのごとく大きなバックリボン。
枯れないシルクフラワーのヘッドドレスが可憐さをさらに演出し、幸せそうな花嫁の笑顔が自然浮かんでくる、幸福感に溢れたウェディングドレス。
紬花がエトワールで働いているのは、他でもない、世界でひとつであろうドレスと出会ったからだ。