俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
頭部などに怪我はなく、右腕の骨折だけで済んだのは不幸中の幸いだったが、庇ってもらい怪我までさせて謝罪と感謝だけで済ますことなど紬花にはできない。
骨折の診断が出た時、陽からはハッキリと『世話なんて必要ない。そんな暇があるなら自分の仕事に集中しろ』と窘められのは紬花も覚えている。
しかし、男女交際には昔から厳しい紬花の父に、怪我をさせたのはあゆみだと嘘までついて来たのだ。
何もせずに帰るつもりなど毛頭ない紬花は、諦めはしないと陽の双眸を見つめた。
「あのな、うちに来たって特にやることはないんだ。家のことなら月曜日と木曜日の週二回、ハウスキーパーを雇ってやってもらっている」
「それもあゆみさんから聞きました。でも、利き手が使えないと、ご飯の支度も着替えもお風呂も大変ですよね。あっ、おトイレだって難しいのでは」
紬花の脳裏に浮かぶのは、数年前、弟が骨折した時のこと。
利き手を骨折してしまった弟は、食事はスプーンかフォークを使い、入浴時は服がうまく脱げないとボヤいていて大変そうだった。
きっと陽も同じに違いないと考えて口にしたのだが、返ってきた反応は同意や肯定ではなく、信じられないものを見るような眼差し。