俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
──紬花が知っている食事会は、カフェやレストランで行われるものだ。
お酒がメインであれば、居酒屋やBARだろう。
数えるほどしかないが、今まで参加してきた飲み会も、そういった比較的カジュアルな店でグラスを合わせてきた。
しかし、今夜は様子が違った。
天井から吊り下がるのは、クリスタルの輝きが眩いシャンデリア。
深紅の壁にはめ込まれた暖炉では薪の上で炎が躍り、まるで高級ホテルのスイートルームの如く、ラグジュアリーな空間をこれでもかと演出している。
「橘さん、本当にこのワイン、飲まなくていいのかい?」
半円を描く革張りのラウンドソファー。
その中央に腰を沈め、手に持ったワイングラスを揺らす博人に訊ねられ、借りてきた猫のようにおとなしく座り、肩を小さく寄せ続けている紬花は愛想笑いを浮かべた。
「は、はい。お酒はあまり得意じゃないので……」
得意じゃないというより口にしたことがないのだが、飲めたとしても今は陽の世話があるため酔ってなどいられない。
例えそれが年代物の白ワインであり、博人とあゆみが美味しいと絶賛していても。