俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
紬花は「ウーロン茶で十分です」と答え、丸い大理石テーブルに置かれたグラスを掴んだ。
(このグラスも高いものなのかも)
万が一落として割ってしまったら大変だと、一口飲んでからしっかりとテーブルに戻す。
そもそも店構えからして高級感が漂っていた。
閑散としたビルの最上階フロア。
重厚な扉の横に設置された指紋認証に、博人が節くれだった指を押し当てるとロックが解除。
イギリス貴族の館を彷彿とさせる広く豪華なエントランスで一行を出迎えたのは、かっちりとしたスーツに身を包んだ従業員だった。
『御子柴様、いらっしゃいませ』
『やあ、こんばんは』
『お部屋へご案内いたします。こちらへどうぞ』
言葉遣いも立ち振る舞いも品が良く、案内されたこの個室も上品かつ優雅な部屋で、一瞬自分が何をしに来たのかわからなくなったほど。
席に着く前、そっとあゆみに尋ねたところ、どうやらこの店は博人のお気に入りの会員制個室レストランで、元は陽が見つけて時々通っていたのだとか。
ちょうど一年前、ニューヨーク店のマネージャーを勤めるブレアが来日した際、あゆみも一度だけ皆と一緒に訪れたことがあると語った。