俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
確かに、誰かをもてなすにはうってつけの店だ。
特別感に満たされた空間と、希少価値の高いワインやシャンパン。
最高級の食材を使って調理された料理は、ワインとの相性まで工夫が施されているらしく、博人とあゆみは満足そうに食事を楽しんでいる。
「御子柴さん、何か食べませんか?」
紬花は真っ白な取り皿を手にすると、博人と自分の間に座る陽に声をかけた。
陽は入店してからワインに数度口をつけたのみで、特に何も食べていない。
元々あまり夕飯は食べないというのは居候初日に聞かされており、今日までつまみ程度の物しか用意していないので重々承知だ。
しかし、今日はいつにも増して食べる気配が見られず、具合でも悪いのかと心配になる。
「いや、今はいい」
「食欲ないですか? もし今が無理なら、帰ったら何か作りましょうか?」
しっかり食べないと傷の治りも遅くなるだろう。
治癒力を高める食材で調理したら食べてもらえるかと思案していると、博人が肩をすくめて鼻で笑った。
「橘さん、そこまで甲斐甲斐しく世話しなくてもいいよ。陽もいい大人なんだ。なぁ、陽?」
博人の声は柔らかい。
だが、どことなく鋭さを纏っている気がして、その違和感を微かに拾った紬花が首を傾げるより早く、陽が「ああ」と答えた。