俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
世話の必要はないと言われ、気持ちが沈みかけた紬花だったが、それも一瞬のこと。
「でも、橘がいてくれて助かってる。毎日用意してくれる飯も美味いしな」
陽の視線は誰に向かうでもなく声色も少しぶっきらぼうではあったが、人前にも関わらず褒められて、紬花の気分は上昇。
喜びに緩む頬はほんのりと朱を差した。
「おお、御子柴君が素直……」
あゆみも思わず驚く陽の褒め言葉に、博人も「珍しいな」と呟きを落とす。
しかし、それが陽の牽制であろうと気づき、すぐに笑みを貼り付けた。
「なるほど、橘さんは料理上手なのか。じゃあ、ぜひ俺の家にも作りに来てくれないか?」
以前、まだ紬花が世話を始めてすぐの頃に、博人は似た質問をしたことがある。
あの時は陽に話を切り替えられて引いたが、今回は引く気はない。
陽がフォローに入っても、紬花の意見を聞きたいのだと黙らせるつもりでいたのだが。
「ごめんなさい。社長のお家はちょっと……ダメなんです」
陽がフォローをするまでもなく、紬花は眉を下げて断りを入れた。
一瞬脳がフリーズしかけていた博人は、ウーロン茶を冷やす氷がカランと涼やかな音を立てたのを合図に「なぜかな?」と余裕を取り繕って問う。
博人の質問に、紬花は答えあぐねて口を噤んだ。