俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
なぜかと問われて一番に思い浮かぶ理由は、博人のところに行くなと、以前陽に言われたから、となる。
けれども、それだけじゃないと紬花は感じていた。
行きたいと思えないのだ。
陽が自分の作る料理を美味しいと言ってくれたのが、ひどく嬉しい。
料理を作るのなら、博人のためではなく、陽のためだけに腕を振るいたい。
その想いは、ひとつの感情から湧き、紬花の心を満たしている。
喜びを与えられれば軽やかに跳ねて踊り、微笑まれれば甘く蕩けて、冷たくされれば切なく疼く。
いつの間にか芽生えていた陽への気持ちを、今、紬花は確信した。
嫉妬によって気付いた時、戸惑い逃げてしまった想いの名は……恋心。
──御子柴さんが、好き。
恋に落ちたのだと、ようやく答えを得たばかりで言葉にする勇気などあるはずもなく。
心の準備さえできていない紬花は、頬を想いの桃色に染める。
「ひ、秘密、です」
熱を持った顔を隠すよう俯いた紬花に、陽の胸がチリ、と痛んだ。