俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
いっそ本人に直接問えばいいのだろうが、それでは癒しの効果が半減するような気がして躊躇してしまう。
はあ、と知らずため息が零れ落ち、もう一度紅茶を飲もうとアンティーク調のティーカップに指を添えた時だ。
「やっぱり橘さんか」
「社長! お疲れ様です」
「お疲れ様。相席いいかな?」
「はい、どうぞ」
今日は朝から経営会議や人事部との採用会議などが続いており、ミーティングルームに籠りっぱなしだった博人が紬花の向かいに座った。
「ブレンドとホットサンドを」
博人からオーダーを受けた店員が「かしこまりました」と伝票にペンを走らせる。
いつも高級そうな料理を食べていそうな社長もカフェでホットサンドを食べるのかと、新鮮な気持ちで見ていた紬花は、もしかしたらホットサンドが好物なのかもと考えたところでふと思いついた。
兄である博人なら、陽が何を好み、何に癒されるのかを知っているのではと。
「社長、ちょっと伺いたいことがあるんですけど、いいですか?」
「何かな?」
脱いだジャケットを椅子にかけた博人が足を組むと、丁寧に手入れされた茶色い革靴が揺れる。