俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない

「御子柴さんの好きなものって知ってますか?」


紬花の唇から出た苗字は自分と同じものであるが、自分を差したものではない。

それがいささか気に入らないが、博人は僅かに目を細めただけですぐに微笑みを浮かべた。


「陽の? なぜ?」

「最近イライラしているというか、元気がないというか……そんな風に見えるので、何かしてあげたいなと思って」

「なるほど」


話を聞いた博人は、十中八九、自分に理由があるのだろうことをすぐに悟った。

というよりも、陽に見えるところであえて紬花に声をかけている。

その度に陽が反応し、機嫌を悪くしていく様が、博人の心はたまらなく歓喜に震えるのだ。

自分は今、陽より優位にいるのだと感じられるから。


「残念だけど、俺が知っているのは陽が学生の頃のものばかりだな」


店内に程よい音量で流れるクラシックミュージックに博人の低い声が被さる。


「子供の頃から変わらずに好き、というものはありそうですか?」


ほんの少しでも何かあればと紬花が食い下がると、博人は顎に手を当て考える素振りを見せた。


「子供の頃というのは、かなり幼い頃も入るかい?」

「どこまででも」


幼稚園でも小学校でも、昔はこんな食べ物が好きだったとわかれば作って懐かしいと喜んでもらうこともできるだろう。

そう思い頷いたのだが、博人は「とすると、わからない期間があるな」と答え、運ばれてきたコーヒーカップの持ち手に指を添えた。

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