俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
革張りの黒いソファーとガラス製のローテーブル。
ソファーの背後には、昼夜問わず華やかな都心を映す眺望の良い壁一面の大きな窓に、紬花は思わず声を上げる。
「わ、素敵なお部屋と景色ですね!」
「そうか? 部屋は俺の好みだが、景色はごちゃこちゃしていて好きじゃない」
「そうなんですか? てっきり景色を気に入って住んでいるのかと思いました」
「気に入ったのは兄だ。俺が選ぶならもっと緑の多い静かなと」
「ビリヤード台まである! さすが御子柴さんはオシャレですね!」
すでに別の場所へと興味が移った紬花は、笑顔で陽のセンスを賞賛した。
(こいつ、本当にマイペースだな)
けれど、そんな紬花だからこそ雇ったのは自分なのだと苦笑してビリヤード台に触れる。
「これは兄から押し付けられたんだ。欲しいならやるぞ」
「うちにこんな大きなものを置いたら、お父さんに邪魔だって怒られちゃいますよ」
笑って答えた紬花の父は、紬花が生まれてからずっと紬花を溺愛している。
しかし、その溺愛ゆえに男女交際に関しては異常なまでに厳しく、紬花に変な虫がついては大変だと小学校から高校までは女子校に入れていた。