俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
今後のことで悩んでいたところだ。
少し気分を変えたかったというのもあるが、少女を放っておけないというのが本音だった。
『……ええっ!? 私、初対面の人と男女交際するのはレベル高すぎて無理ですっ』
『いや、そっちじゃない。カラオケとか、ドリンクバーお替りの方に、だ』
素直過ぎて、放っておけば、あっという間にまたナンパにひっかかってしまうに違いないことを会話で痛感しつつ答えると、少女は『い、いいんですか?』と遠慮がちに、しかし瞳に期待を滲ませて陽を見つめた。
『俺も悩んでいることがあってスッキリしたかったところだ。気分転換に付き合うくらいかまわない』
『ありがとうございます!』
明るい声と共に咲いた輝かんばかりの笑顔が、陽の心を刺激する。
不思議と、悩みによって重く燻っていた胸が内が軽くなった気がした。
『名前聞いてもいいか?』
訊ねたのは、呼ぶ時に不便だからなのか、それとも純粋に興味が出たからか。
多分、後者であろうことを頭の片隅で理解しながら見つめる陽に、少女は微笑んだ。
『ゆいかです』
『ゆいか、だな。俺は』
『鳴瀬さん、ですよね! 今日はよろしくお願いします』
ゆいかが口にしたのは母の旧姓だが、きっと今日限り会うこともないだろう。
ならば自分の名が何であろうとかまわないと考え、陽は『よろしく』と答えると、ゆいかと共に並び立って店を後にした。