俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
同日、夜──。
陽の家に来客を告げるチャイムが鳴り響き、夕食の支度をしていた紬花は顔を上げる。
その音がエントランスではなく玄関前のものだとわかり、コンロの火を止めるとスリッパの音をリズムよく立てながら廊下に出た。
玄関扉の向こうにいる相手が誰であるかは半ば想像できている。
しかし、わかっていても俺がいない時には開けるなと陽から口酸っぱく言われているので、紬花はインターホンのモニター前に立った。
映し出されているのは、予想通り、最上階に住む博人だ。
「社長、お疲れ様です」
「橘さんお疲れ様。陽は?」
「今、お風呂なんです」
「そうか。実は、いいワインを手に入れたから届けに来たんだけど、陽に渡しておいてもらえるかな?」
博人は、弟が紬花に扉を開けないように忠告しているのを知っている。
二カ月前、堂々と宣言されたのだ。
『紬花と付き合うことになった。だから、まだ兄さんが紬花にかまうようなら、本気で買うぞ、その喧嘩』
博人を射殺すような鋭い眼光を放ち、さすがの博人もその時は『わかったよ』と両手を上げて降参の意思を見せた。
だが、陽がそこまで本気になる紬花の魅力を知りたいと思う気持ちがあり、博人は陽が怒らないギリギリのラインでちょっかいを出し続けている。