俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない

そんなやり取りがあったことや博人の思惑など露知らず、紬花は「今開けますね」と玄関へと足を進めた。

入浴中ではあるが、陽は家にいる。

何より、夕食時に美味しいワインが飲めたら陽が喜ぶだろうと思ったのだ。

ドアを押し開けると、博人が「やあ」と優しく微笑む。


「こんばんは」

「こんばんは。最近会えてなかったから君の顔が見れて嬉しいよ」

「そういえばニューヨークに出張でしたよね。お疲れさまでした」


昨日までの一週間、ニューヨークで仕事をしていた博人。

ブライダルコレクションに関する打ち合わせがメインで、本来ならばデザイナーの陽も渡米する予定だったのだが、骨折のこともあり、今回は博人と秘書のふたりだけの出張となった。


「で、このワインがそのニューヨーク土産だよ」


完治した祝いにと思って買ったワインだったが、こうして紬花に会ういい口実となったことを博人は密かにほくそ笑む。

それに気づかぬ紬花は、笑み浮かべてワインの入った手提げ袋を受け取った。


「ありがとうございます! 御子柴さんに渡しておきますね」

「あれ? 恋人になったのに、まだ苗字で呼んでるのかい?」

「あ……いえ、その、人前ではそうしてます」

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