俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
互いを名前で呼び合うようになったのは、陽と恋人関係になってすぐだ。
陽は七年前の出会いですでに紬花を名前で呼んでいたので割と自然に口にしているが、紬花はいまだ少し照れが入ってしまう。
それでも、いつかは慣れていくのだろうと思うと、胸の内が温かくもくすぐったい。
「なるほど。じゃあ、俺のこともふたりきりの時は名前で呼んでもらおうかな」
博人は、どんな反応が返ってくるのかと、試すつもりで言葉を発した。
以前、陽が言っていた。
紬花は今まで博人が釣って来た魚たちとは違うのだと。
ここで自分に靡いたらさぞ笑える結末になる。
しかし同時に落胆もするだろうと考えていた博人に、紬花は黒目がちな目を見張る。
「えぇっ? 社長は社長ですよ。あ、でも、いつか”社長”ではなくて、別の呼び方をする時が来る……かもしれないんですかね!?」
ほんのりと赤味を帯びた頬を押さえた紬花の姿に、博人は少しのデジャヴを感じた。
少々繋がらない会話と質問の仕方。
これと似た展開が、数カ月前、会社のリフレッシュスペースで繰り広げられた気がしたのだ。