俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない
とりあえず博人はいい方にとらえて会話を進めることにする。
「それは、まだ俺にもチャンスがあると思っていいのかな?」
「あるんでしょうか……そうなったら少し照れますね」
本当に照れた様子ではにかむ紬花の姿が、博人の瞳に可愛らしく映る。
これはやはり釣れてしまうのかと少し残念な気持ちで「試しに今呼んでみてくれるかな」と頼んだ。
「い、今ですか?」
「そう、今」
催促されると、形良く、かつ弾力のある紬花の魅惑的な唇が遠慮がちに開く。
「お……」
「……お?」
なぜ、「は」ではないのかと疑問に思った直後、紬花のソプラノが博人を新しい名で呼んだ。
「お義兄、さん」。
予想の斜め上をいかれ、博人は呆気にとられてフリーズする。
まだ付き合ったばかりなのにおこがましいですよねと顔を真っ赤にして謝る紬花を見下ろしていた博人は、ようやく状況を理解し、噴き出して笑った。
「なるほど、そうきたか。君の頭の中は陽でいっぱいなんだなぁ」
これは自分がいくら口説いても靡かないだろうと思わされ、しかしそうであることを喜びながら博人は微笑む。
「確かに、俺はもう十分すぎるくらいあいつから奪ってきた。だから、君くらいは諦めてもいいかな」
弟よりも常に上にいることは、自分が御子柴博人として生きることに必要だ。
その想いは変わっていないし今後も変わることはないだろう。
陽を憎んでいるわけではない。
いや、心のどこかで憎んでいたかもしれないが、それでも陽が博人を御子柴の家族として受け入れてくれているのを知っている。
唯一、陽だけが、兄として博人を慕ってくれていたのだ。
対抗心は燃やしても、嫌いになれるはずもなかった。