未来の私へ
「ん・・。」

カーテンの隙間から差し込む朝の光に起こされ、私はボーっとしながら目を覚ました。

チラッと窓の方に顔を向けると、外はすっかり明るくなっていた。今度は反対側に顔を向けると、私の横で池上君が寝ていた。

昨日の事は、夢じゃなかった・・。

そう思いながら寝ている池上君を見る。すると池上君も目を覚まし、バッチリと目が合った。目を覚ました池上君は慌てて飛び起きる。

「あ、あの・・昨日はすみませんでした。」

池上君は開口一番に申し訳なさそうに謝ってきた。私はベッドから降り服を着る。

「謝るような事したの?コーヒー入れておくから、服を着たらリビングに来てね。」

私は池上君に微笑みかけそう言うと部屋から出た。温かいコーヒーを2人分準備してリビングで池上君が来るのを待つ。すると私の携帯が鳴り始める。携帯の画面には『木嶋 智史』彼氏の名前が表示されていた。

こんな時に電話なんて・・。電話に出るか迷ったが、出ないのも不自然なので電話に出た。

「・・はい、もしもし。」

「紗香、久しぶり。起きてた?」

「えぇ、寝起きだけど。朝から珍しいわね。どうしたの?」

「実はさ、一時帰国する事になったんだ。明日の夜、日本に帰るよ。大事な話もしたいし、帰ったらホテルでディナーしよう。」

「大事な話?」

「明日楽しみにしてるよ。じゃあな。」

電話が切れた。大事な話って何だろう?

「プロポーズじゃないですか?」

顔を上げると池上君が目の前に座っていた。ブスッとした顔で私を見ている。

「プロポーズ?まさか・・。」

「絶対そうですよ。」

池上君は冷めたコーヒーをぐいっと飲み干す。

「昨日の事は、俺誰にも言いませんから安心して下さい。そして・・犬に噛まれたと思って、紗香さんも忘れちゃっていいですから。ただ・・。」

「ただ?」

「俺は忘れません。酔った勢いだけで抱いたわけじゃないから。俺は紗香さんの事が好きです。大好きです。昨日は告白だけしようと思ってずっとタイミングを計ってたんですけど、スーツ姿から普段の紗香さんに変わった時、完全に理性が吹っ飛びました。」

へへっと苦笑し池上君は立ち上がった。

「じゃあ帰ります。月曜日に仕事で会いましょう。」

「あ・・気をつけて帰ってね。」

引き止めたところで私は何を言っていいのか分からない。玄関まで見送って池上君と別れた。
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