ママですが、極上御曹司に娶られました
「ありがとうございます。がんばります」

 私の返事に、社長が安堵したようにうなずいた。

「早速、来週にあちらで打ち合わせがあるんだ。その資料を作ってもらえる? 店舗にも行ってもらってるのに、ごめんね」
「いえいえ、大丈夫です」
「親会社が流通大手の『SEIAN(セイアン)』なんだ。何度かはSEIANの本社で打ち合わせになると思うよ。あと、あちらの視察も入る」

 その社名に私は凍り付いた。
 SEIANは正安通商の現在の社名だ。

 SEIANは父と私の仇。そして新の父親のいる場所。

 きゅっと唇を噛みしめる。
 今からでもプロジェクトを抜けたいと言うべきだろうか。しかし、詳細は話せない。そして、期待してくれている社長に悪い。

「じゃあ、説明するね」

 社長の言葉に必死に集中しながらも、私の心は千々に乱れていた。


 その週の終わり、業務提携に先駆けて、相手方の視察がやって来た。爽の里の社長と担当者、そして親会社SEIANの社長と部下数名というのが視察団のメンバーだ。昼過ぎまで駅前店舗にいた私は、戻っても合流はしなかった。今日は社長と工場長でお相手するのが決まっていたからだ。
 心を無にしなければ。近くに彼がきていることに、恐怖のような感情が湧いてくる。
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