ママですが、極上御曹司に娶られました
「それじゃあ、先生、よろしくお願いします。お迎えはいつも通りです」
「承知しました。お預かりいたします」

 先生へ頭を下げ、新を見ると、彼はなんとも言えない表情をしている。元気いっぱいで保育園が大好きな新も、私と別れるこの瞬間だけは、いつも寂しそうな顔をする。

「新、お迎え夕方の五時半よ」
「うん、短い針、六と五の間。長い針、六」

 新は最近時計に興味があるらしく、壁時計を見ながら言う。えらいえらい、と親馬鹿全開で私はうなずいた。

「いってらっしゃーい」
「いってきます」

 ふたりでタッチして、ぎゅっと一回だけ抱っこして、私はおひさま保育園をあとにした。


 電動自転車に跨り、向かったのは、同じ東武蔵市にあるお弁当製造会社『アケボノごはん株式会社』のオフィスビルだ。
 オフィスビルといっても三階建で一階は店舗、二階と三階が事務所。隣には大きなお弁当製造工場がそびえている。
 ここが私の働く職場だ。私はこの会社で事務や店舗の販売補助をしている。

「おはようございます」

 オフィスに入ると、同僚たちが顔をあげて答えてくれる。

「桐枝(きりえ)さん、おはよう」
「おはようございます」

 方々に挨拶をしていると、先輩の女性社員である貝瀬さんが近寄ってきた。

「千華子(ちかこ)ちゃん、おはよ。早速で悪いんだけど、今日お店に人が足りなくてさ、そっちに入ってもらってもいい?」
「いいですよ。下ですよね」

 私が答えると、貝瀬さんが首を振った。

「今日は天間町のほうのお店」
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