ママですが、極上御曹司に娶られました
 さっとお風呂に入り、新の横に寝ころぶ。まだやっておきたいことはあるし、ここからようやく自由時間。なのに子どもの寝顔を見ながら呼吸を合わせていると、いつも深い眠りに落ちてしまう。ああ、寝てしまった。でも気持ちよかったなあ。そんな心地よい眠りに子どもの寝息は誘ってくれる。
 私はこれ以上起きていることをあきらめ、重い身体を無理やり起こして、家中の電気を消した。

 新の寝顔は、この子の父親によく似ている。
 新には父親はいないと言って育ててきた。たったそれだけの言葉でも子どもは察するようで、新は幼い頃から父親がいない家庭環境を受け入れ、とくに疑問も持たずに生きている様子だ。

 しかし、いつまでもこのままでいられるとは思っていない。新はいつか自身の出生について疑問を覚え、私に直接問いたださなくても周囲に尋ねるだろう。
 叔父である栄司なら答えられるし、栄司は新が求めたら真実を伝えるはずだ。栄司は新を尊重しているし、私のやってきたことを認めてはいない。

 だから、私はその日が来るのが一日でも遅いことを願っている。
 新が父親の存在を気にし出し、会いたいと考えるその日が怖い。

 新は私の子なのだ。私ひとりの子だ。たったひとつだけの宝物なのだ。私は新を失えない。
 新と暮らす今。私の平和。この平和が私のワガママと勝手でできあがったものだとしても、もう手放すことは考えられないのだ。

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