基準値きみのキングダム
「あー……。いーよ、椋は放っとこ」
「え」
「あいつは別枠ってことで。それに椋、プレハブの鍵を返しにいくとかなんとか言ってたし」
なんだか申し訳ない気もするけれど、深見くんがそう言うのなら、いいのかな。
深見くんとふたり、並んで渡り廊下を歩く。
プレハブから教室のある棟へと続く渡り廊下は、放課後になると人がひしめき合っているけれど、この時間は誰も通らないみたい。
ぺた、ぺた、とふたり分の足音だけが響く。
「どうだった?」
突然投げかけられた質問にきょとんとすると、深見くんが言葉を重ねる。
「どういう流れで杏奈を呼ぼうってなったのか知らないけど。あいつらと話すのとか、初めてだったんじゃねーの?」
「うん……」
「またガッチガチに緊張してたの、気配で察してた」
「うっ」
毎度のことながら、なんで、深見くんには全部筒抜けなの。
どうせ筒抜けなら、もういいか、と肩の力が抜けた。