基準値きみのキングダム


「あー……。いーよ、椋は放っとこ」

「え」

「あいつは別枠ってことで。それに椋、プレハブの鍵を返しにいくとかなんとか言ってたし」




なんだか申し訳ない気もするけれど、深見くんがそう言うのなら、いいのかな。



深見くんとふたり、並んで渡り廊下を歩く。



プレハブから教室のある棟へと続く渡り廊下は、放課後になると人がひしめき合っているけれど、この時間は誰も通らないみたい。



ぺた、ぺた、とふたり分の足音だけが響く。




「どうだった?」




突然投げかけられた質問にきょとんとすると、深見くんが言葉を重ねる。




「どういう流れで杏奈を呼ぼうってなったのか知らないけど。あいつらと話すのとか、初めてだったんじゃねーの?」

「うん……」

「またガッチガチに緊張してたの、気配で察してた」

「うっ」




毎度のことながら、なんで、深見くんには全部筒抜けなの。

どうせ筒抜けなら、もういいか、と肩の力が抜けた。





< 105 / 262 >

この作品をシェア

pagetop