基準値きみのキングダム
「俺が気づかなかったら、そのまま学校行ってた。姉ちゃんは、絶対」
既に制服に着替えていた私にジトッとした視線を向けた奈央に、心のなかで『だって、熱があるなんて知らなかったんだもん』と言い訳する。
「とりあえず、姉ちゃんは学校に電話。俺と京香が学校行ってる間は、部屋で大人しく寝てて」
「えっ」
「えっ、じゃないだろ。ほらさっさとする」
「待って、まだお弁当作りかけ────」
「俺がやるから。ほら病人はあっち」
顎でリビングから追い出されて、自分の部屋に戻る。
奈央に促されるまま、学校に欠席連絡を入れた。
電話を切ったと同時に、部屋に奈央が押し入ってきて、着替えのスウェットがぽーんと飛んでくる。
それから、救急箱のなかから取ってきてくれたのか、風邪薬と、水の入ったコップと。
「薬飲んで寝る。それでも熱下がらなかったら病院行こ」
「……うん」
「京香の迎えは俺が行くから。任せて」
「……うん、ありがとう」
「何か食べたいものある? 帰りに買ってくるけど」
「大丈夫だよ、私、何でも食べられるから。冷蔵庫のなかにまだ色々残ってるし」
週末に作り置きしておいてよかった、京香と奈央の夕ごはんの分もギリギリだけど足りると思うし……とほっとしていると、奈央は眉を吊り上げる。